1.乳がんにおけるパクリタクセル耐性の分子機序を解析した。乳がん患者の27例中9例(33.3%)において、パクリタクセル使用後にコールドショック蛋白dbpB/YB-1が核に移行すること、P糖蛋白の発現が亢進していることを観察したが、12例はdbpB/YB-1の核内移行もP糖蛋白の発現亢進も観察されなかった。また、dbpB/YB-1はパクリタクセルにより細胞質から核に移行すること、多剤耐性遺伝子MDR1の転写調節領域にあるCCAATモチーフへの結合が亢進することを見出した。以上からdbpB/YB-1は乳がんにおけるパクリタクセル耐性に関与する重要な分子であると考えられ論文で報告した。 2.抗がん剤耐性を転写因子の観点からその分子機序と分子標的の可能性について総説で報告した。その中でコールドショック蛋白dbpB/YB-1がP糖蛋白の発現や予後と相関する多くの報告があることを示した。 現在投稿中の論文 1.コールドショック蛋白dbpC/Contrinの発現を免疫染色で検討した結果、正常細胞では生殖細胞が特異的に染色された。また、数種類のがん細胞で染色されることを観察した。 2.コールドショック蛋白dbpC/Contrinの発現制御を解析した結果、dbpC/Contrinの転写調節領域にあるE-boxとこれに結合するN-Mycが重要であることを見出した。 現在計画中の研究 1.コールドショック蛋白dbpAが薬剤の感受性に関与する可能性がある結果を得たのでABCトランスポーターの発現や解毒系酵素群の発現を検討し、その機序を明らかにする予定である。 2.コールドショック蛋白dbpBがリン酸化を受けることを見出したので、リン酸化の部位およびその意義について検討する予定である。
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