本研究の成果は次の(1)〜(7)である。(1)乳がんにおけるパクリタクセル耐性の分子機序を解析した。その結果、dbpB/YB-1は乳がんにおけるパクリタクセル耐性に関与する重要な分子であると考えられた。(2)dbpC/Contrinに対する抗体を作製して正常組織およびがんでの発現を免疫組織染色で検討した。その結果、dbpC/ContrinがCancer/Testis Antigenになる可能性が示唆された。(3)精巣腫瘍におけるdbpC/Contrinの発現と細胞の局在を検討した。その結果、細胞特異的な発現に重要な領域を同定し、C末端に細胞局在を制御する領域がある可能性を見出した。(4)dbpB/YB-1^<-/->ノックアウトマウスは胎生致死であり、胎児はβアクチンの発現減少とFアクチンの形成減少が原因と考えられる脳ヘルニアを呈していた。また、dbpB/YB-1^<-/->ノックアウトマウス胚性線維芽細胞の細胞増殖能は低下していた。以上の結果から、dbpB/YB-1はマウス胎児の発育初期に重要な分子であることが示唆された。(5)卵巣がんにYB-1 siRNAを処理してマイクロアレイ解析をいった結果、発現が亢進あるいは低下する遺伝子を網羅的に同定した。また、YB-1の細胞質から核内への移行はAktあるいはintegrin-linked kinase(ILK)が関与することを見出した。(6)転写因子TwistがYB-1の発現を制御すること、Twistによるがん細胞の増殖制御にはYB-1が関与することを見出した。(7)がん抑制遺伝子p53と転写因子Twistが分子会合することをはじめて見出した。分子会合によりp53の標的遺伝子であるp21およびTwistの標的遺伝子であるYB-1の転写抑制を観察し、その分子機序と細胞増殖における分子会合の意義を明らかにした。
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