研究概要 |
本研究では、ES細胞を用いた試験管内分化誘導系を利用して、心筋特異的転写因子Nkx2-5と関連する転写因子の探索・同定・解析を行い、転写調節因子ネットワークによる心筋細胞分化誘導機構の解明をめざすものである。我々は胚様体培養時に一時的に血清を除去することによって得られた「心筋分化促進条件」における発現遺伝子の解折をDNAマイクロアレイ法により網羅的に行い、(1)Nkx2-5と同等の発現パターンを示す遺伝子の多くがマウス胚における心臓領域で発現することを明らかにしてきた。このなかにはMef2c, Myocd, Gata4,Gata5,Hand2,Smydl, Foxcl, Lbh, Smarcdなどの既知の転写因子遺伝子が含まれるが、これらの遺伝子のいくつかはNkx2-5と相互作用し、心臓の形態形成等に影響を及ぼすことがすでに知られている。以上のことからこの抽出方法が心臓発生に重要な転写遺伝子を探索する上で有用であることが確認できた。機能解析の進んでいない遺伝子についてはin vitro RNA干渉法と並行して個体レベルでの解析を進めている。RNA干渉法においては1コピーのshRNA発現カセットによるRNA抑制効果を評価するための系も開発した。一方、「心筋分化促進条件」で発現の上昇しない、(2)Nkx2-5とは異なる発現パターンを示す遺伝子のいくつかもマウス胚心臓領域で発現することがわかった。そこで遺伝子発現の細胞特異性を詳細に解析するため、マウス9.5日胚の心臓および卵黄嚢の細胞を血管内皮マーカーCD31でセルソーティングし、RT-PCRにて遺伝子発現を解析したところ、これらの遺伝子のいくつかは心臓由来のCD31陽性細胞、すなわち心内膜細胞で発現していることが明らかとなった。これまでに心内膜特異的なマーカーはあまり知られておらず、今回発見したCgnll, Dok4は心内膜と心筋の起源と分化の仕組みを解明する上で有効なツールとなるであろうと考えられた。
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