研究課題
【研究の目的】Her2は乳癌における代表的な癌遺伝子産物で、その発現亢進は癌組織の異形性や遠隔転移率の上昇と相関があり、独立した予後不良因子であることが明らかにされています。また、臨床的にも予後の判定や化学療法抵抗性の予測はもちろんのこと、抗Her2抗体(ハーセプチン)が治療に用いられ一定の効果が認められています。一方、非受容体型のチロシンキナーゼであるSykは主として血液/免疫系の細胞に存在していると考えていましたが、最近の研究ではSykは乳腺上皮細胞にも見出され、乳癌においてその発現の低下が癌の悪性化や進行に相関していることが報告されており、癌抑制性の機能を担っていることが考えられます。これらの二つのキナーゼは何れも乳腺組織に存在する蛋白質チロシンキナーゼであり、下流の情報伝達経路に差違があるためにこのような違いが生じると考えられます。現在、乳癌細胞にそれぞれのキナーゼを高発現させ、チロシン燐酸化蛋白質を比較、解析、同定し、乳癌において細胞内情報伝達の癌化スイッチとして機能しているか否かを検討している所です。【本年度の研究実績】1)乳癌細胞株、卵巣癌細胞株におけるHer2及びSykの発現9種類のヒト乳癌細胞株及び6種類のヒト卵巣癌細胞株において、内在性のHer2及びSykの発現を検討した。乳癌細胞株ではMDAMB453、卵巣癌細胞株ではOVK18、RMUGL、RTSGにおいてHer2の高発現とSykの低発現が認られた。2)Syk遺伝子導入状況癌細胞におけるSykの機能を検討するために、乳癌細胞株MDAMB453及び卵巣癌細胞株OVK18に対しSykを導入した。MDAMB453についてはジェネティシン耐性細胞をクローン化し(MS3、MS5、MS7、MS11)Sykの発現状況とHer2発現の変化についてmock細胞と比較した。OVK18については耐性細胞について同様の検討を行った。いずれの癌細胞においてもSykの強制発現によってHer2の発現が低下する傾向が認められた。3)細胞増殖速度の低下これらの癌細胞におけるSyk導入と引き続くHer2発現の低下が細胞の形質に与える影響として、先ず、増殖速度について検討した。MDAMB453のSyk定常発現クローン細胞であるMS5においてmock細胞に比して増殖速度の明らかな低下が認られた。
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Life Sci (in press)