1.WFS1遺伝子欠損インスリノーマ細胞株の樹立・解析:インスリノーマを発症するIT6マウスとWFS1欠損マウスを交配させ、生じた腫瘍から継代可能なWFS1欠損β細胞株を樹立した。WFS1欠損β細胞株では、グルコースによるインスリン分泌の低下を認めたが、正常WFS1蛋白を発現させたところインスリン分泌は回復した。しかし、ウオルフラム症候群患者に認められた変異を有するWFS1蛋白を発現させた場合には、変化を認めなかった 2.WFS1蛋白の細胞内カルシウム制御における役割の解析:WFS1蛋白を過剰発現するHEK293細胞あるいはshRNAにより発現を抑制したHEK293細胞のクローンを、ドキシサイクリン誘導発現系を用いて確立し、カルシウムインディケーターFura-2を用いてカルシウム動態を解析した。さらに、ミトコンドリアあるいは小胞体局在型に改変したキメラエクオリンを用いて、カルシウム動態を検討した。その結果、WFS1蛋白が小胞体のカルシウム恒常性の維持に重要な役割を果たすとともに、容量性カルシウム流入の調節にも関与することが明らかとなった。 3.WFS1欠損膵島mRNA発現プロファイル解析と抗アポトーシス因子としての4E-BP1の同定:6週齢のWFS欠損マウス膵島よりRNAを抽出し、DNA microarrayによって遺伝子発現を検討した結果、WFS1欠損膵島では小胞体ストレス応答遺伝子の発現が上昇し、細胞周期の異常やアポトーシスシグナリングの亢進が認められた。その中で、注目された遺伝子に翻訳抑制因子4E-BP1があった。WFS1:4E-BP1二重欠損マウスを作製すると、β細胞の減少と血糖コントロールの増悪が認められ、4E-BP1の発現増加が小胞体ストレスによるアポトーシスからβ細胞を守る役割を果たしていることが明らかとなった。 4.WFS1欠損マウスのグルカゴン分泌異常の解析:WFS1欠損マウスではピルビン酸に対するグルカゴン分泌の充進が認められた。また正常膵島でも、TCA回路中間体がそれらに対する細胞膜上の輸送担体を発現することによりグルカゴン分泌を誘導することを明らかにした。
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