本研究では様々な癌で過剰発現し癌遺伝子様機能を果たしているWT1遺伝子の多様な機能のメカニズムを「タンパク複合体による生体反応の実行」の観点から明確にすることを目的にして研究を行なった。まずBlue Native PAGEにより様々な癌由来の細胞株においてWT1タンパクが含まれるタンパク複合体のサイズを解析した。その結果、WT1タンパクは細胞によって異なるサイズの複合体を形成することが明らかになった。次にその複合体を構成するタンパクを同定するためにWT1タンパクとassociateするタンパクをpull down assayおよび免疫沈降法により解析し複数の候補タンパクを得た。 WT1には4種のisoformがあり、異なる機能を果たす可能性が報告されている。これらの機能と上で明らかになったタンパク複合体の機能を対応させるためにWT1 isoformのそれぞれの機能を明確にすることを目的に研究を行なった。まず、WT1のひとつめのalternative splicing部位である17AA配列をもつ17AA(+)WT1アイソフォームと17AA配列をもたない17AA(-)WT1アイソフォームのそれぞれを特異的に発現抑制するベクター型siRNAを構築した。これらをWT1を発現する白血病細胞に導入したところ17AA(+)WT1アイソフォームの発現抑制によりアポトーシスが誘導されたが17AA(-)WT1アイソフォームの発現抑制ではアポトーシスが誘導され、これらの結果からWT1の4種のアイソフォームのうち17AA(+)WT1アイソフォームが抗アポトーシス作用を持つことが明らかになった。さらに17AA(-)KTS(-) isoformを卵巣癌細胞、食道癌細胞や肉腫細胞に強制発現させたところ細胞の形態変化を誘導しin vitroの細胞運動能や細胞浸潤能を増強することが明らかになった。
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