日本では2005年の統計で、肺癌による死亡者数は全がん死の19%を占め難治性悪性腫瘍のひとつである。 本研究は肺癌抑制遺伝子産物であるTSLC1(IgSF4:Immunoglobin superfamily 4)細胞表面分子の細胞内領域をモノユビキチン化するユビキチン連結酵素としてskeletrophinを同定し、さらに、その異常のもたらす病態医化学、分子病理学的側面を悪性黒色腫瘍、多発性骨髄腫での癌増殖微小環境を含めて検討した。具体的には、skeletrophinはc末端RINGモチーフを使用して基質のモノユビキチン化活性を行うこと、TSLC1のみならずNotch ligands (Jagged-2)の細胞内領域も標的であることを明らかにした。またskeletrophin遺伝子のプロモーター領域を同定しCpG richであること、種々の悪性腫瘍で過メチル化により発現が抑制され、悪性腫瘍進行が促されることを明らかにした。さらに悪性腫瘍とその間質との相互作用(癌微小環境)でskeletrophinが司るモノユビキチン化が、標的分子の細胞質内取り込み、リサイクルを引き起こしNotch pathwayを含む標的分子活性化に必須なことを明らかにした。 Skeletrophin発現および機能異常が関係する肺癌、悪性黒色腫、多発性骨髄腫は進行した場合、難治性であり比較的高齢者に好発することからかも癌細胞に特異性の高い新たな分子標的治療の開発が望まれている。Skeletrophin発現およびそのユビキチン連結酵素活性の制御は癌間質の制御による悪性腫瘍増殖抑制という新たな視点の分子標的治療にも繋がると期待される。
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