この数年、私共は、私共が見出した新規シンタキシン結合蛋白質であるTaxilinファミリーの機能解明を進めており、本研究において、TaxilinファミリーがNAC複合体との結合を介して翻訳過程にあるリボソームの細胞内輸送に関与している可能性を見出している。さらに、TaxilinファミリーがαNACとの結合を介してαNACによるc-Jun依存性の転写を制御している可能性も見出している。これらのことから、Taxilinファミリーが種々の蛋白分子と結合することで多様な細胞機能を遂行している可能性が高くなっている。さらに、最近、脳腫瘍(星状細胞腫)においてα-Taxilin mRNA量の増加が報告されており、Taxilinファミリーが細胞の増殖・分化やがん細胞の浸潤・転移にも関与している可能性も高くなっている。そこで、本年度は、α-Taxilinに焦点を絞り、市販のヒトがん組織サンプルを用いて種々のがん組織におけるα-Taxilinの発現様式を免疫組織染色法にて検討し、以下の研究成果を得た。α-Taxilinは、大腸のneuroendocrine細胞以外ヒト正常組織においてほとんど発現していなかったが、星状細胞腫において染色性の亢進を認めると共に、大腸がんや乳がんのがん組織でもα-Taxilinの染色性の亢進を認めた。しかし、α-Taxilinの発現量とがん細胞の悪性度、ならびにがん細胞の転移性の有無との関連は認められなかった。以上のことから、本年度の研究により、α-Taxilinが少なくとも細胞のがん化に伴って発現量が変化することが確かめられた。
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