高等動物培養細胞株を用いて、単一の染色体部位にDNA二重鎖切断(DSB)を誘導し、その後の修復過程をリアルタイムモニタリングするシステムを構築することを目指して検討を行った。まず、18塩基認識制限酵素1-Scelの認識配列を含んだ人工基質をあらかじめ染色体に1コピー組み込んだ細胞を作成した。I-SceIの発現導入法として、(1)18塩基認識制限酵素I-SceIに細胞内移行シグナルの11アミノ酸(TAT配列)を付加した組み換え蛋白の作成。(2)エストロジェン受容体(ER)との癒合蛋白としての発現。以上の二つの方法を試みた。前者では、培養液に添加することでの細胞内導入を、後者はタモキシフェン添加によって一気に核内に移行させることを狙った。誘導されたDSBの修復によるネオマイシン耐性化を主なリードアウトとして検討した。 (1)の結果として、I-SceI制限酵素とTAT配列との融合蛋白(TAT-I-SceI)の精製は可能であったが、沈殿化し、活性のある形での精製は我々の手では不可能であった。 (2)I-SceIとERとの融合蛋白発現は、ERをI-SceIのN末、C末にそれぞれ一つづつ付加したもの、さらにふたつのERでI-SceIをはさんだものと、3種類を試みた。DSB誘導をligation mediated PCRとネオ耐性化で確認したが、サザンブロットで検出できるレベルまでは効率は上がらなかった。人工基質部分のクロマチン構造が切断を阻害する可能性をクリアするため、同様の人工基質をもち高効率でネオ耐性化することが報告されている細胞をケンブリッジ大から共同研究で入手して検討したが、効率は同等であった。 最近、海外の二つのグループが同様の方法論を学会で報告した(キーストンミーティング、2007)。効率は我々と同レベルと思われる。タモキシフェン添加により簡便にDSBを誘導出来る細胞は確立できているので、今後この細胞の応用を検討してゆく。
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