研究概要 |
高発ガン性遺伝疾患であるファンコニ貧血(FA)、家族性乳ガン(BRCA)原因遺伝子産物はどちらも相同組換えと呼ばれるDNA修復機構に関連する。FA経路とBRCA経路の機能的関連はこれまでにも多く指摘されているが、生体内での作用メカニズムは不明である。研究代表者等は、ニワトリFancD2のN末側をbaitとしたyeasttwo-hybrid(Y2H)スクリーニングにより、BCCIPというBRCA2結合タンパク質のC末側断片を単離した。そこで、BCCIPがFancD2とBRCA2の両方に結合し、FA経路とBRCA経路を直接的に結びつける可能性を考え、検討を行った。 BCCIPとFancD2の相互作用を確認するために、ニワトリBCOIPとFANCD2の全長をクローニングし、それぞれHis、TAPタグ付きタンパク質として発現するベクターを構築し、293T細胞に共発現させ、ビーズによるTAP-FancD2のプルダウンとウエスタン法によりBCCIPとFancD2の結合を確認した。 次に、ヒト遺伝子でこの分子間相互作用の普遍性を検討した。ヒトBCCIPとBRcA2の結合が報告されており(Liu等2001:Lu等2005)、全長のヒトBCCIP、FANCD2の全長並びにN末端断片、さらに結合領域を含む3つの異なるヒトBRCA2断片を用い、bait,preyの考えられる全ての組み合わせについて、Y2H法で検討を行った。BCCIP baitとBRCA2 preyで非常に弱い相互作用が検出されたものの、その他の組み合わせでは相互作用が見られなかった。 ヒトでの検出が難しいので再びニワトリ遺伝子を用い、今度はmammalian two-hybrid(M2H)法で検討した。ニワトリBCCIPとFANCD2の全長及びスクリーニングで同定された断片を用い、bait,preyの考えられる全ての組み合わせを試したが、どれも相互作用を検出できず、ニワトリBRCA2の断片を同時に共発現させても効果はなかった。BCCIPとFancD2の相互作用は非常に弱く、用いる実験系により検出の程度が異なると考えられる。 DT40細胞を用いたBCCIPのコンディショナルターゲティングは、第1アリルは順当であったが、第2アリルのターゲティングは困難であり、数100個のクローンを調べたが達成されていない。酵母の類似遺伝子BCP1は致死であり(Audhya&Enlr2003)、DT40でもBCCIPが致死遺伝子である可能性が推測される。そこで、ヒト細胞を用い、RNA干渉法(RNAi)によるBCCIPの発現抑制(ノックダウン)を試みている。293T細胞に導入したGFP融合ヒトBCCIPの発現が抑制されることを確認したので、内在性BCCIPの発現抑制の条件を検討中である。 一方、研究代表者らはニワトリDT40細胞由来のfancc/brca2二重変異細胞を作製し、細胞増殖と細胞のX線感受性ではこの2つの経路が遺伝学的に関連することを報告した(Kitao等2006)。つまり、FA経路とBRCA経路の相互作用が生体内で確かに存在することが確認された。その相互作用領域を確定し、変異体を作製、解析することにより、BCCIP-FANCD2の相互作用の生物学的意味を探っていきたいと考えている。
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