研究概要 |
進行した固形癌は不完全な血管構築による還流不全のために、低酸素・低栄養・アシドーシス等の内部環境をもつ部分(低酸素領域)が少なからず存在する。そのような劣悪な環境下で一部の癌細胞は可逆的に分裂を停止して生存しており、治療抵抗性の源となっている。mTOR(mammalian target of rapamycin)シグナルは十分な酸素・栄養状態では活性化して癌細胞の増殖と生存を促進するが、酸素やエネルギー源の欠乏では負に制御されている。平成17年度はmTORシグナルがヒト癌細胞の低酸素での生存にどのように関与しているかを分子生物学的に明らかにすることを試みた。まず、in vitro実験系で癌細胞のmTORシグナルを介した低酸素耐性の分子機構を解析した。低酸素耐性の膵臓癌細胞と低酸素感受性の大腸癌細胞を用いた。低酸素下での操作は、本研究費で購入したガス置換型グローブボックスを用いた。大腸癌細胞ではRhebおよびeIF4Eの強制発現によって低酸素下で低下したmTORシグナルを活性化することができ細胞死を誘導できた。さらに、阻害剤(LY294002,rapamycin)でPI3K,mTORシグナルを抑制したところ、低酸素培養条件下で細胞死を回避することができた。しかし、膵臓癌細胞では低酸素下でmTORシグナルを活性化することは不可能であった。さらに、TAT-ODD蛋白による低酸素耐性細胞の傷害効果を解析した。TAT-ODDシステムにmTORシグナルを増強するRhebを搭載し膵臓癌細胞内に導入したが、低酸素下で低下したmTORシグナルを上昇させることはできなかった。膵臓癌細胞ではRhebの活性化に加えて別の因子がmTORを活性化させるのに必要と考えられる。
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