申請者は、平成17年度より、細胞工学的手法を用いて中心体の再複製を抑制する遺伝子の単離および機能解析を試みた。 マウスA9細胞は、正常細胞であるが、ヌードマウスへの造腫瘍性があることが知られている。我々は、この細胞の中心体数を調べたところ、過剰複製した中心体を持つ細胞はほとんど観察されないが、DNA複製阻害剤であるハイドロキシウレア(HU)処理を行うと、処理時間に依存して中心体の過剰複製が高頻度に起こることを明らかにした。そこで現在、マウスA9細胞にヒト染色体が一本導入されている細胞ライブラリーを用いてHU処理を行い、中心体の過剰複製を抑制する活性を持つヒト染色体の一次スクリーニングを行い、第8番染色体、第15番染色体、第17番染色体がA9細胞の中心体の過剰複製を抑制する活性を持つことを明らかにした。このうち、第8番染色体がもっとも抑制活性が強いことを突き止めた。引き続き、ヒト第8番染色体のRadiation hybrid mappingを行い、活性を有する染色体上の部位を限局した結果、第8番染色体短腕に中心体の過剰複製を抑制する遺伝子が座位していることを明らかにした。 さらにDNA複製阻害剤や放射線照射によって容易に中心体の過剰複製を誘発できるヒト骨肉腫細胞U20Sに一次スクリーニングで同定した第8番染色体を導入した結果、ヒト細胞でも中心体過剰複製抑制活性を持つことを明らかにしている。 今後、ヒトゲノムデータベースを用いて、活性を持つ染色体上に中心体複製に関与する可能性のある候補遺伝子を探索すると同時に、精製した中心体の2次元電気泳動を行い、最終的に中心体過剰複製抑制遺伝子(タンパク質)を単離し、その機能解析を行う予定である。
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