遺伝子プロモーター領域のCpGアイランドの異常メチル化は、がん抑制遺伝子の不活性化機構の一つとして知られている。カルシウムチャンネル遺伝子CACNA2D2(以下、A2D2)とCACNA2D3(A2D3)は、胃がんや肺がんで染色体欠失が多い染色体3p21領域に位置している。これらは、電位依存性カルシウムチャンネルα2δサブユニットをコードしており、他にもホモロジーが高い2遺伝子(CACNA2D1とCACNA2D4)が別の染色体に存在している。本研究では電位依存性カルシウムチャンネル遺伝子のがん化への役割を明らかにするため、胃がんにおけるA2D1〜A2D4の4遺伝子のメチル化解析を行った。正常胃粘膜上皮ではA2D1/2/3の3遺伝子が発現しており、それら遺伝子のメチル化は陰性であった。胃がん細胞7株の解析ではA2D1とA2D3でのみ、発現とメチル化の関連性が認められ、メチル化陽性の殆どの細胞株は脱メチル化剤処理後に発現回復した。胃がん組織70例におけるA2D1とA2D3のメチル化頻度は、それぞれ10例(14.2%)と19例(27.1%)であった。臨床病理学的諸性状との関係では、未分化型がんでのA2D3メチル化頻度は分化型がんに比べて有意に高かった(p=0.03)。更に、A2D3メチル化陽性がんの患者の予後は陰性がん患者に比べて有意に悪かった(p<0.01)。A2D3遺伝子の強制発現実験の結果、細胞増殖の低下、細胞内カルシウム濃度の増加と細胞周期に関わるp21とp27蛋白の発現増加が認められた。またA2D3遺伝子のRNA干渉実験により、p21とp27の低下が確認された。以上より、A2D1とA2D3遺伝子の発現消失にはメチル化が関与していることが示唆された。更にA2D3は機能的に細胞増殖に関与しており、A2D3異常は発がんにおいて重要と考えられた。
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