研究概要 |
39例の骨軟部腫瘍を使って、EGFR遺伝子の増幅と突然変異、EGFR蛋白と下流のシグナル伝達物質の過剰発現とリン酸化を検索した。 免疫染色ではEGFR蛋白の過乗発現は肉腫の27%に見られたが、良性腫瘍には認められなかった。ウェスタンブロットではEGFRの過剰発現のあった肉腫のうち47%にEGFR蛋白のリン酸化の亢進がみられた。2例の悪性腺維性組織球腫では、それぞれEGFR遺伝子の高度増幅と染色体7のポリソミーが見られ、EGFR蛋白の発現とそのリン酸化の程度は有意に高かった。またStat-3のリン酸の亢進も認められた。 点突然変異は4例、4箇所に見られ、いつれも肺癌においてhot spotとして報告されている部分と一致しなかった。このうち3例はmissense mutationであり、いずれもEGFRの過剰発現が見られ、EGFRとStat-3のリン酸化の亢進は2例に認められた。 遺伝子異常の見られなかった症例ではEGFRの過剰発現は肉腫と良性腫瘍のいずれにもみられた。しかし、これらの腫瘍ではEGFRの発現やリン酸化の程度と特定のシグナル伝達物質の活性化(リン酸化)との間に相関はみられなかった。Akt, Stat-3およびErk1/2の3つのシグナル伝達系統の中では、Akt系の活性化の頻度が高く、Stat-3系の活性化は滑膜肉腫や脊索腫などの上皮性性格を帯びた腫瘍でみられた。 以上の結果は遺伝子増幅やポリソミー7で起こるEGFR蛋白の過剰発現が下流のStat-3の恒常的活性化をもたらすことを示唆し、これに対しEGFRの点突然変異は必ずしもEGFRや特定のシグナル伝達系の活性化をもたらさないことを示した。また、多くの腫瘍でSta-3やErk1/2に較べてAkt系が主に機能していることが明らかになった。これらの結果は骨軟部腫瘍におけるEGFRとその下流のシグナル伝達物質の関与に新しい視点を与え、これらが分子標的療法のあらたな対象になる可能性が示唆された。
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