この研究では未分化型胃癌の遺伝子発現プロファイルにどの程度組織環境とゲノムの変化が寄与しているかを明らかにしようとしている。 1.胃癌細胞株Kato IIIを用いて、CESHでT/R比のシフトの見られた48領域のマイクロアレイスポットのT/R比の平均を計算し、CESHの結果および28領域についてはRT-PCRの結果と対比した。test DNAをcy5で、reference DNAをcy3で種々の標識でCESHを行い結果を比較したところ、cDNAマイクロアレイとの一致率の最も高かったのはrandom primerによるpost-cDNA標識とpre-cDNA標識であった。これまでの報告でCESHに用いられてきたPCR標識によるpost-cDNA標識では一致率が35%と非常に低く、使用に堪えないことがわかった。RT-PCRとcDNAマイクロアレイとはほぼ完全に結果が一致した。 2.以上をもとに新たに確立したCESHのプロトコルを、これまでCGH解析を行ってきた胃、食道の原発腫瘍の凍結材料に適用した。CESHのreferenceには胃、食道の正常上皮細胞を用いた。ゲノムコピー数変化とconcordantな染色体レベルの発現変化は腫瘍内部位に関係なく見られる傾向があった。一方、ゲノムコピー数変化とdiscordantな染色体レベルでの発現変化は、腫瘍の一部にみられることが多く、腫瘍の局所環境に応じた染色体レベルのepigeneticな発現調節がしばしば起こっていることを示唆する結果を得た。 3.40例の未分化型胃癌に対してE-cadherinとβ-cateninの免疫組織化学を行い、印環細胞癌に由来するものは、粘膜外に浸潤する際に、E-cadherin exon8の発現をダイナミックに変化させていること、浸潤性と細胞間接着の低下とは必ずしも平行しないことを明らかにした。
|