基底膜分子であるラミニンはα、β、γの3つの鎖からなり、α鎖がその受容体との結合に関与している。α鎖のなかで、α5鎖は成体の殆どの基底膜に分布する主要な鎖である。一方、その受容体としてインテグリン、ルテランなどが同定されている。ラミニンα5鎖とその受容体は殆どの上皮細胞で観察されるが、基底膜を伴わない正常の肝細胞では発現がみられない。しかしながら、癌化した肝細胞がインテグリンやルテランを発現し、ラミニンα5鎖がその周囲に蓄積しているのを予備的な実験により見出した。本年度の研究では、ラミニンα5鎖とその受容体の発現と肝細胞癌の分化度との相関関係について検討を行った。 1.ラミニンα5鎖の抗体による病理標本のスクリーニング 札幌医科大学の倫理規定に基づいて病理解剖と肝臓の病理診断を行い、9例について病理標本を作製した。ホルマリン固定の試料は常法に従い病理診断に用い、凍結試料は切片を作製しラミニンα5鎖の抗体で網羅的に免疫染色した。その結果、低分化・高分化に関わらずラミニンα5鎖の発現が観察され、特に正常肝細胞との判別が難しい高分化型でのよいマーカーになる可能性が示唆された。 2.肝細胞癌株におけるラミニンα5鎖受容体の発現と分化度の相関 予備的な実験により、ラミニンα5鎖受容体であるルテランの発現が、高分化型の肝癌細胞株で強く、低分化型で弱いことを見出していた。本年度の研究では、ラミニンα5鎖受容体であるインテグリンα3の発現を調べたところ、ルテランの発現とは逆相関することを明らかにした。ルテランとインテグリンα3は、ともに細胞外のシグナルを細胞内へ伝える分子である。ラミニンα5鎖から受けるシグナルが肝細胞癌の分化度によって異なっていることを示唆する結果を得た。
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