ラミニンはα、β、γ鎖からなる基底膜の主要な構成分子であり、現在までにα鎖が5、β鎖が3、γ鎖が3種類報告されており、組み合わせによって15種類のアイソフォームが存在している。これまでに、各アイソフォームの主要な機能に関わるラミニンα鎖に対する特異的な抗体を用いてヒト肝細胞癌における発現を解析したところ、ラミニンα5鎖が高分化型・低分化型を通して発現することを明らかにしてきた。また、ラットより単離した正常肝細胞とラット肝細胞癌株FAA-HCT1を用いて、α5鎖を含むラミニンに対する細胞接着を調べた。その結果、ラット肝細胞癌株FAA-HCT1は正常ラット肝細胞より低濃度でα5鎖を含むラミニンに接着し、癌化により細胞接着が亢進することを示してきた。このことは、ヒト肝細胞癌で特異的に発現してくるラミニン受容体の機能を反映しているものと考えられることから、本年度の研究では、さらに肝細胞癌で観察されるラミニンα5鎖を認識する受容体の発現について検討を行った。その結果、正常の肝細胞ではラミニンα5鎖の受容体といわれているインテグリンやルテランの発現は見られなかったが、癌化によりインテグリンα6とルテランの発現が上昇していた。そして、その発現はラミニンα5鎖と同様に高分化型・低分化型を通して観察された。ラミニンα5鎖に特異的に結合するルテランは、スプライシングの違いによって細胞内ドメインを欠失したB-CAMとなる。肝細胞癌株を用いてルテランとB-CAMを検討したところ、シグナル伝達に関わる細胞内ドメインを持つルテランが優位に発現していた。以上のことから、肝細胞癌で発現するラミニンα5鎖は異所的に発現するだけでなく、肝細胞癌に発現する受容体を通して相互作用し、肝細胞癌の進行に関与する事が示唆された。
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