平成17・18年度の2年間にわたりβ-カテニンシグナルループによる子宮内膜癌(以下、内膜癌と略)細胞の増殖抑制機構の分子機構を検索し、β-カテニン遺伝子よる内膜癌遺伝子療法の可能性を模索した。内膜癌細胞株のIshikawa細胞にβ-カテニンを過剰発現させると、p14発現誘導を介してp53/p21系が活性化し、結果として細胞増殖は停止した。この過程でβ-カテニンの転写パートナーであるTCF4の発現増加を認め、TCF4のプロモーター解析により、β-カテニン/TCF4/p300複合体がTCF4のプロモーター領域に結合して転写レベルでその発現を誘導するpositive feedback loopを形成しp14/p53/p21系を活性化することが明らかになった。さらに、外因性β-カテニン過剰発現は、内因性p16発現増加を誘導し、p16のプロモータ0領域の解析の結果、β-カテニンがTCF4非依存性にp16遺伝子の翻訳開始点から上流の-385bpから-280bpのプロモーター領域を刺激することにより、その転写能を増加させる事が判明した。加えて、内膜癌細胞の増殖能はpRbのリン酸化及びp16の発現増加と相関し、その増殖抑制によりpRbのみが発現抑制されたことより、β-カテニンは、p16の発現調節を介してp16/pRb系を改変し内膜癌細胞の増殖を抑制することが判明した。今後は、これまでの結果を総合的に捕らえ、β-カテニンシグナルループによる内膜癌細胞増殖制御機構の分子基盤を確立させることにより内膜癌のβ-カテニン遺伝子療法への展開に繋げたい。
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