研究概要 |
目的と背景 腎細胞癌(RCC)の予後規定因子のうち、tumor stageは最も重要な因子であるが、国内外で広く採用されているTNM分類におけるtumor stageは3種の因子によって規定される。すなわち、腫瘍の大きさと進達度(pT),リンパ節転移の有無及び遠隔転移の有無である。一方、RCCにおけるリンパ節転移の経路としての腎内リンパ管分布の組織学的同定は、近年のリンパ管内皮細胞マーカーの進歩により可能となったが、RCCのリンパ管侵襲や腫瘍周囲のリンパ管増生とリンパ節転移との関連については検討されていない。平成18年度は、上記を捕捉しつつ、所属リンパ節転移の危険因子を包括的に検討した。 材料及び方法 全76例のRCC手術摘出例を用いたが、これらのうち16例は所属リンパ節転移例である。各症例のパラフィン切片について、HE染色、Victoria blue染色、LYVE-1抗体、CD34抗体、VEGF-C抗体を用いて免疫染色を行った。RCCの組織型、細胞型、核異型度、腫瘍増殖様式、静脈侵襲、pT stage,を観察し、癌細胞によるリンパ管侵襲を観察し、さらにRCC内のリンパ管密度及び周囲皮質のリンパ管密度を計測した。 結果 1.核異型度、腫瘍増殖様式、静脈侵襲及びpT stageは有意にリンパ節転移の」危険因子であった。 2.リンパ管侵襲に影響する因子は、腫瘍最大径、細胞型、核異型度、腫瘍増殖様式、静脈侵襲、pT stageは、リンパ管侵襲の危険因子であった。 3.癌のリンパ管侵襲の有無及び侵襲密度は、有意にリンパ節転移に多かった。 4,上記について、多変量解析を行うと、これらの因子の内、リンパ管侵襲には、腫瘍増殖様式、静脈侵襲が独立した危険因子となり、リンパ節転移には、リンパ管侵襲の有無のみが独立した危険因子であることが判明した。 5.腫瘍周囲のリンパ管増生は、癌細胞が発現するVEGF-Cのみでなく、周囲の正常部分の尿細管から恒常的に発現するVEGF-Cも関与するものと考えられる。
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