研究概要 |
肺癌の進展において重要な役割を演ずると推測される浸潤前線における癌細胞・宿主細胞相互応答に関わる遺伝子群の発現解析法の確立とその分子機構の解明を目指し研究を行ない、以下の結果を得た。 1.これまで遺伝子プロファイリング解析に用いてきたcDNAマクロアレイ(Clonetech社)と新規のGeneChipオリゴヌクレオチドプローブアレイ(Affymetrix社)の比較・検討から、得られるデータの再現性という観点で後者の方が優れていることを明らかにした。後者に対応したlaser-captured microdissection(LCM)法の応用による微量検体でのアレイ解析のための適切な増幅方法に関し、現在、検討中である。 2.研究のための肺癌腫瘍組織資料の収集は順調で、これまでに287組織を登録した。 3.LCM/real time RT-PCR法により、肺非小細胞癌浸潤部腫瘍細胞ではMMP-1,MMP-2,MMP-3,MT1-MMP(MMP-14),TIMP-2,FGF2(bFGF)などの間葉系細胞特異的な遺伝子群が発現亢進していることが示された。肺非小細胞癌、特に、扁平上皮癌浸潤部腫瘍細胞では個体発生における未分化間葉細胞の増殖・分化において重要な役割を演ずることが知られているHMGA2(HMGIC)遺伝子の発現が発現誘導されることをmRNAならびに蛋白レベルで明らかにした。HMGA2遺伝子と上記の間葉系細胞特異的遺伝子群のmRNA発現間の有意な相関が示され、肺扁平上皮癌浸潤前線における癌細胞のepithelial-mesenchymal transition(EMT)には、HMGA2が深く関わっている可能性が強く示唆された。更に、肺扁平上皮癌症例においては、HMGA2遺伝子発現と腫瘍進行度、生命予後との有意な相関が示され、HMGA2は肺扁平上皮癌の浸潤性を局所で制御するための有望な標的遺伝子と考えられた(第95回日本病理学会総会(東京)で発表)。 4.癌細胞・宿主細胞相互応答における重要要素の一つである血管増生に関わる遺伝子群を肺腺癌において蛋白ならびにmRNAレベルで発現解析した。その結果、一般的血管内皮マーカーであるCD31・CD34による腫瘍組織でのmicrovessel density(MVD)と比較し、新規の増殖性内皮細胞マーカーであるCD105-MVDが予後と相関することを明らかにした(J Nucl Med 47:419-425,2006)。また、CD105-MDVと腫瘍組織中のhypoxia-inducible factor(HIF)-1発現間の有意な関連、HIF-1発現と生命予後との関連も示され、肺腺癌の進展においてHIF-1がキー遺伝子の一つであることが強く示唆された。
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