研究概要 |
肺癌浸潤部微小環境における癌細胞・宿主細胞相互応答に関わる遺伝子群の解明と臨床応用可能な発現解析法の確立を目的とし研究を遂行し以下の結果を得た。 1.肺腺癌の侵襲性判定パネル構築のため新たな遺伝子群を、1)腫瘍血管増生、2)微小乳頭構造の有無(新たな予後不良因子として近年提唱された)、3)上皮内腺癌と浸潤性腺癌での差異に注目し検討した。 2.1)より、CD105で標識される新生血管数、VEGF121、Ang-2、HIF1α、HIF2α遺伝子発現と肺腺癌の浸潤性増殖ならびに予後との間に有意な関連性が示された。 3.2)では、DNAマイクロアレイ解析により微小乳頭状腺癌は通常乳頭状腺癌とは明らかに異なるクラスターを形成した。CXCL14遺伝子発現低下とS100P遺伝子発現元進が微小乳頭状腺癌の生物学的悪性態度に関わることが示された。 4.3}の上皮内腺癌と浸潤性腺癌におけるDNAマイクロアレイ解析により、後者ではHDAC1、Twist1、CEACAM1遺伝子が、前者ではMMP-28、VEGF-D遺伝子が有意に発現元進していることが明らかになった。 5.前年度の研究から明らかになったMMP-14、MMP-3、p21-rac1、Notch-41Jagged-1,-2、c-fosrelated antigen、ezrin、MIC-1の9遺伝子に加え、今回新たに選別された11遺伝子を加えた20遺伝子を用い肺腺癌侵襲性診断パネルを構築し、LCM法を応用した肺腺癌浸潤部でのこれら遺伝子発現パターンの検討を現在進行中である。 6.がん細胞・宿主細胞応答遺伝子を実験系で解析した。HT1080細胞のヌードマウスへのorthotopicとheterotopic innoculationによる遺伝子発現ブロファイリングを比較解析し、Plako910bin(γ-catenin}遺伝子発現抑制がorthotopic innoculationでのがん細胞増殖・浸潤に関わっていることが示され、臨床例を用いた解析からplakoglobin(γ-catenin)遺伝子は新たな転移抑制遺伝子であることが確認された。浸潤部周囲間質からの炎症性サイトカインを介したがん細胞におけるHDAC遺伝子発現充進によるepigeneticな遺伝子発現制御が生じている可能性が強く推測され、現在解析を進めている。
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