研究概要 |
ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)は、蛋白質中の塩基性アミノ酸であるアルギニンを中性アミノ酸であるシトルリンに変換する酵素である。蛋白質シトルリン化反応は、正電荷を失うことから、蛋白質の高次構造に著しい変化をもたらす。生体内には5種類のアイソフォーム(PAD1,2,3,4/5,6)が存在し、活性化にカルシウムイオンを必要とする。特に、PAD2は脳全体に広く分布し、他型PADは検出されない。本課題では、アルツハイマー病などの神経変性疾患におけるシトルリン化蛋白質の生成、PAD活性化機構を解明し、疾患発症におけるPADの関与を明らかにする。今年度、以下に示す研究成果を得ている。 (1)アルツハイマー病の脳では、シトルリン化蛋白質が多く出現し、病状の進行程度(Braak Stageにより評価)に応じてその量が増加することを明らかにした。免疫組織染色により、シトルリン化蛋白質陽性細胞は、主に反応性アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアなどのグリア細胞であった。また、神経細胞の一部も染色された。同時に、アミロイドベータ蛋白質(Aβ)やリン酸化タウに対する抗体を用いた連続切片による免疫組織染色を行った。その結果、Aβ陽性の老人斑やリン酸化タウ陽性の神経原線維変化とシトルリン化蛋白質陽性の染色部位が良く一致した。 (2)中枢神経系でのPADの機能を明らかにするため、PAD2遺伝子を破壊したノックアウトマウスを作製している。現在、PAD2の第1エクソンを欠失させた遺伝子組換え体を作製し、ES細胞に導入して、陽性クローンのスクリーニングを行っている。 今年度、アルツハイマー病患者脳でのシトルリン化蛋白質の動態を解析し、期待通りの結果を得ることができた。アルツハイマー病発症におけるシトルリン化蛋白質の関与は明白である。
|