研究概要 |
Array-CGH法を用いてATLL急性型17症例、リンパ腫型49症例の計66症例のゲノム解析を行った.急性型17症例の増幅領域の平均は4.2領域,欠損領域の平均は4.5領域であった.一方,リンパ腫型49症例の増幅領域の平均は9.7領域,欠損領域の平均は9.8領域であった.この結果から急性型よりもリンパ腫型でゲノム異常数が多いことは明らかである。急性型は数少ないゲノム異常,もしくは,array CGH法で検出できないような転座,mutationなどによって腫瘍化に至る可能性が推測される。その一方でリンパ腫型では多数のゲノム異常を伴っていることからその蓄積によって多段階的に腫瘍化に至る可能性が示唆される.両者に共通のゲノム異常は3p26-q12,3q25-29,8q24,9p24,9q34,14q32領域で増幅を,2q37,4q21,6q14,9p21,9q21,17p13.1,19q13領域で欠損を認めた.一方,3p26-q26領域の増幅は急性型に特徴的なゲノム異常であり,1q22-23,1q41-44,2P25,4q21-22,4q26-27,7p22,7q11-36の増幅,10p12,13q21-32,16q21-22,18p11の欠損はリンパ腫型に特徴的なゲノム異常である.従って,急性型,リンパ腫型それぞれの臨床病態を特徴付ける標的遺伝子がそのゲノム異常領域に含まれていると考えられる.また,両者は同じHTLV-I感染に由来する腫瘍であるものの、ゲノム異常数,ゲノム異常領域も異なっていることから腫瘍化に至るそれぞれ別の機序が存在すると推測される. ATLLのarray-CGH解析の結果,リンパ腫型の複数の症例で7p22.2領域に強いゲノム増幅を検出した.この領域(BAC : RP11-498D18)にはCARMA1,GNA12という2遺伝子が存在する.その中でもCARMA1遺伝子はT細胞受容体(TCR)からのシグナル伝達を介しTCRによるNF-kBの活性化を引き起こすことが知られている.また,NF-kBは成人T細胞白血病細胞では持続的に活性化していることが知られており,ATLLの腫瘍化に極めて重要だと考えられている.そこで,リンパ腫型21症例でCARMA1遺伝子のReal-time quantitative PCR(RQ-PCR)を行った.その結果,7P22.2領域の増幅している症例ではCARMA1遺伝子の発現が亢進しており,リンパ腫型での標的遺伝子であると考えられた.一方,急性型では7P22.2領域のゲノム増幅とは関係なくCARMA1遺伝子が高発現しており,急性型では転座等のゲノム増幅以外の未知な機序によってCARMA1遺伝子の発現が亢進していると考えられる.この成果はBlood誌(2006)に発表した。
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