env-pXラット(ヒトT細胞白血病ウイルスHTLV-IのLTR-env-pX遺伝子導入ラット)では、骨髄由来のT前駆細胞が導入遺伝子を発現する胸腺で分化成熟する過程において何らかのセレクション異常が生じ、自己免疫性血管炎が発症すると考えられている。発症前のenv-pXラットにwild type血管内皮細胞を免疫することにより、血管炎の発症が促進された。このことから、env-pXラットの血中には自己の血管内皮細胞に反応し血管炎を惹起するT細胞が存在することが示唆された。次に、免疫ラットのリンパ節細胞をin vitroでwild type血管内皮細胞を用いて繰り返し刺激することにより、自律性増殖を示すCD4陽性T細胞(PC4)を得た。PC4をwild typeラットに静注し5日目に解剖したところ、肺に血管壁の破綻と周囲への単核球浸潤を伴う血管病変が確認された。以上より、env-pXラットから自己の血管内皮細胞に反応し血管炎を惹起するT細胞を樹立できたと考えられる。PC4はT細胞受容体の使用頻度がVβ8.2、8.6、16に限られたオリゴクローナルなT細胞集団であり、そのサイトカインプロファイルはIFN-γとIL-2が陽性、IL-4とIL-10が陰性のTh1フェノタイプを示した。引き続き、血管炎惹起性T細胞の分子解析を行うことにより、血管炎の標的分子を明らかにすることができると考えられる。また、PC4の移入による血管炎誘発モデルは、血管炎の病因病態解明のみならず、血管炎に対する新しい治療法の開発にも有用であると考えられる。今後、env-pXラットの胸腺で自己血管反応性T細胞が除去または不活化されないメカニズムについても解析を行う予定である。
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