研究概要 |
本研究では,体質や先天的遺伝子異常,もしくは明らかな環境発癌因子を起因とする発癌以外の原因で生じるいわゆる"一般がん"の発癌機構として,低酸素再酸素化環境下に生成するフリーラジカルを想定し,その証明を行った.この目的のために,ヒト・ラット・マウス由来の不死化正常細胞株もしくは良性腫瘍細胞株を使用した.生体内に生じる低酸素再酸素化環境を培養条件下で再構築するために,低酸素インキュベーター(1%O_2)と通常酸素インキュベーター(21%O_2)の双方の培養環境下を交置培養した.その結果,下記の研究成果を得た.(1)低酸素培養環境から通常酸素培養へ移行後,数時間後より細胞内のフリーラジカル生成が顕著に増加することを,特異的フリーラジカル検出プローブ(蛍光)により見いだした.また,このアッセイ系にフリーラジカル消去剤を添加することで,その生成が著減することから,低酸素再酸素化により培養細胞内にフリーラジカルが生成することを検証した.(2)低酸素再酸素化を継続処理した細胞株のうち,マウス不死化線維芽細胞株およびマウス良性線維肉腫細胞株において,それぞれ発癌および悪性化(転移能の獲得)を観察した.(3)癌化した細胞株とこれの親細胞株間に発現する分子をそれぞれDNAマイクロアレイおよびタンパク質二次元電気泳動にて解析した結果,数種類の分子の発現が発癌に伴って増減することを見いだした.これらの研究成果より,生体内虚血再灌流傷害を模倣した低酸素再酸素化培養により,内因性フリーラジカルが細胞内に生じ,この細胞内環境が反復・持続することで発癌・悪性化が進展することを明らかにした.現在,上述の発癌・悪性化に関わる機能的責任遺伝子の同定を進行中である.
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