我々はC3Hマウスにおいてレトロウイルスの一つであるフレンド白血病ウイルス(FLV)の感染が放射線誘発p53依存性アポトーシスを著明に増強する実験系を見出した。FLVに感染したC3Hマウスに低線量の放射線を全身照射すると、マウスは照射後2週間で著明な貧血を起こして死亡し、骨髄造血細胞には高頻度のアポトーシスが観察される。遺伝子改変動物を用いた実験からFLV感染下で起こるこのp53依存性アポトーシスの増強にはDNA-PKとATMが関与していることがわかった。これらのPI3キナーゼのうち特にDNA-PKが、ウイルスのgp70と関連したp53活性化に重要な意味を持っている。そこで今回はin vitroの造血系細胞株で、この現象が再現されうるかどうかについても検討した。用いた細胞株はC3Hマウス由来の放射線誘発骨髄性白血病細胞株で、FLVを感染させることによって放射線誘発アポトーシスが増強されることがわかった。さらに、ウイルスの遺伝子のうちgp70のみを導入した細砲株を作製した。このような細胞株のうちgp70を強く発現しているものを用いて3.0Gyの放射線照射を行い、アポトーシスの誘導の程度を観察した。その結果、gp70を導入した細胞では放射線誘発アポトーシスの誘導が増強されることがわかった。Wortomaninを用いてPI3キナーゼの活性を阻害すると、この増強効果は認められなくなり、この効果がPI3キナーゼを介したシグナルによって起こっていることが明らかとなった。さらにRNAiを用いて特異的にPI3キナーゼの活性を阻害する実験系を作成中である。
|