研究概要 |
Drs遺伝子は3つのSushiモチーフと膜貫通ドメインを持つ新しいタイプの癌抑制遺伝子である。Drsは小胞体においてアポトーシス誘導蛋白ASYと結合し、ヒト癌細胞株にCaspase-12,-9,-3の活性化を介するアポトーシスを誘導する。また、我々が作製したDrsKOマウスでは約30%に悪性腫瘍が発生した。Drs誘導アポトーシスと癌抑制との関連を解析し、以下のことを明らかにした。 1.DrsKOマウスに生じた肺癌から樹立した癌細胞株LC-T1にレトロウイルスベクターによってDrsを再導入すると、ヌードマウスでの造腫瘍能が顕著に抑制され、この腫瘍組織ではcaspase-3,-9の活性化を伴うアポトーシスが亢進していた。 2.Drs導入LC-T1細胞はin vitroでも低血清条件下で培養するとcaspase活性化を伴うアポトーシスが誘導された。 3.DrsKO MEF細胞はラバマイシンなどの薬剤によるアポトーシスに耐性を示すだけでなく、低血清条件下で誘導されるオートファジーも抑制されることからDrsがオートファジー制御にも関与していることを見出した。 4.Drsと結合する分子としてストレス応答蛋白GADD34を新たに同定した。また、GADD34は癌抑制蛋白TSCと相互作用しmTOR経路を抑制することも明らかにした。 これらの結果からDrsがアポトーシスだけでなくオートファジーを制御する経路にも関わっていること、またDrsがGADD34/TSCを介して蛋白合成や細胞成長を制御するmTOR経路を抑制することがわかってきた。今後、DrsKOマウスおよび細胞を用いて、Drsによるアポトーシス、オートファジー、mTOR経路制御の分子機構を詳細に解析することにより、これらの経路が発癌制御とどのように関わっているのかを明らかにしてゆきたい。
|