研究概要 |
膿胸関連リンパ腫(PAL)は、慢性炎症を基盤に発症するリンパ腫である。炎症巣で発生する活性酸素は細胞のゲノム損傷をもたらすが、DNA修復異常があると、ゲノム変異の蓄積から癌化をもたらす可能性がある。PAL細胞株、臨床検体を用いてDNA鎖切断修復遺伝子ATM,ATRの遺伝子異常を解析し、新たな視点からリンパ腫発生機序を検討した。1.PAL由来細胞株8例および臨床検体5例から抽出したRNAを用い。ATR、ATM遺伝子のORF全長について遺伝子変異の有無を調べた。細胞株ではATM5例とATR2例の変異を認め、臨床例ではATR変異を2例に認めた。2.ATR変異を認めた細胞株(OPL-2,Pal-1)を用いて、電離放射線(IR),紫外線(UV)によるDNA損傷に対する反応を機能的に検討したところ次のような結果が得られた。A)IRによる二重鎖切断の修復能をパルスフィールド電気泳動法で解析したところ、DNA二重鎖修復能の遅滞を認めた。B)UVによる一重鎖切断の修復能をComet-assay法で解析したところ、DNA一重鎖切断修復能の遅延、消失を認めた。C)IR,UVによるDNA損傷後の細胞周期の変化をフローサイトメトリーを用いて解析したところ細胞周期のG1-S checkpointの異常を認めた。また、細胞周期制御に重要なp53蛋白の蓄積能の低下を認めた。ATMとATRの変異はPALにおいて高率に認め、DNA鎖切断に対する応答異常をもたらすことから、リンパ腫発生に関与している可能性がある。 ミスマッチ修復は塩基損傷修復のひとつであり、発癌への関与が知られている。われわれは血液系細胞株50例の解析からミスマッチ修復異常のある細胞株では、DNA組み換え修復の主要遺伝子であるATM,MRE11にsplicing異常が生じる可能性を示した。
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