神経とマスト細胞との間の解剖学的及び機能的な連関は古くから知られているが、この連関を支持する分子は不明であった。最近研究代表者は接着分子SgIGSF(Spermatogenic Immunoglobulin Superfamily)を新規マスト細胞接着分子として単離した。SgIGSFは免疫グロブリンスーパーファミリーの一員で、細胞外に3つの免疫グロブリン様ループを、細胞内には細胞骨格系と連結するモチーフ配列を持つ。構造的にはNCAM (Neural Cell Adhesion Molecule) -1やNCAM-2に似ている。この分子には他にTSLC1(Tumor Suppressor in Lung Cancer-1)とSynCAM(Synaptic Cell Adhesion Molecule)の名がある。即ち、この分子は、1)精原細胞に発現し、セルトリー細胞への接着を媒介する(SgIGSF)、2)肺癌で発現の消失が高頻度に見られ、肺癌細胞に強制発現させると造腫瘍性が失われる(TSLCl)、3)神経細胞に発現し、神経細胞間にシナプスの形成を誘導する(SynCAM)、という3つの機能を持つことが他のグループにより報告された。興味深いことに、この接着分子はホモフィリックに結合できる。従って、マスト細胞と神経との相互作用がこの分子のホモフィリックな結合によって媒介される可能性がある。この接着分子の神経-マスト細胞間相互作用への寄与を検討するため、上頸神経節細胞とマスト細胞を共生培養し、(1)神経突起に接着するマスト細胞の数、及び(2)サソリ毒による神経特異的刺激に対して応答(細胞内Caイオン濃度の一過性上昇)するマスト細胞の割合を調べた。SgIGSFを発現しないマスト細胞(MITF転写因子変異マウス由来培養マスト細胞やIC-2マスト細胞株)はSgIGSFを発現するマスト細胞(野生型マウス由来培養マスト細胞)に比して、(1)接着細胞数は3分の1、(2)応答率は2分の1であったが、外来性にSgIGSFを発現させるといずれのパラメーターも正常化した。免疫染色では野生型マウス由来培養マスト細胞と神経突起との接点にSgIGSFの集積した局在が確認された。以上の結果より、SgIGSFはそのホモフィリックな結合により神経-マスト細胞間の接着及び機能的な相互作用を媒介する分子であることが示唆された。
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