エストロゲン合成酵素遺伝子欠損(Ar^<-/->)マウスとエストロゲン受容体α遺伝子欠損(ERα^<-/->)マウスはともに精子形成異常を呈する。5ヶ月齢のAr^<-/->マウスでは20匹中2匹で精細管の萎縮が顕著となり、精細管上皮細胞層も極度に薄くなる。また、11匹では上皮細胞層の消失した精細管が存在していた。すなわち20匹中13匹のマウスで精巣に何らかの異常がみられる。10ppmの17β-estradiolを混入した餌で飼育するとこれらの異常の発症を抑制できた。一方、ERα^<-/->マウスでは14匹全てのマウスで完全な精子形成異常が観察された。この現象は精巣輸出管の機能不全が原因であるとされている。輸出管の断面積を測定して内腔の拡張の程度を解析した。野生型マウスは41.0±2.6μ^2、 Ar^<-/->マウスでは42.5±2.9μ^2であり、両者には有意差はなかった。一方ERα^<-/->マウスでは既に報告されているように92.5±6.5μ^2で、有意に拡張していた。すなわち、Ar^<-/->マウスの精巣輸出管では内腔に拡張は見られないことが判明した。また、ERαの発現量も野生型マウスとAr^<-/->マウスで差はなかった。精巣輸出管の微細構造を電子顕微鏡で観察したところ、ERα^<-/->マウスの輸出管には小胞膜のリサイクルに関係しているとされているapical canalicular reticulumと称される構造体が存在しないことが明らかになった。また、ERα^<-/->マウスの精巣輸出管上皮細胞ではGolgi複合体が非常に発達していた。これらの結果から、精巣輸出管上皮細胞ではERαはエストロゲン合成酵素遺伝子に非依存的に小胞のリサイクルを制御していることが推測された。さらに、Ar^<-/->マウスで観察される精子形成の異常は精巣輸出管の機能不全ではなく、精巣内でのエストロゲン作用がないことが原因であると考えられた。その分子基盤の解明にむけてさらに研究を遂行していきたい。
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