研究概要 |
消化管上皮細胞の増殖・分化にHepatocyte Growth Factor (HGF)が大きな役割を果たしていることが明らかになってきた。我々は、HGFの消化管上皮局所での活性化に、特異的活性化因子であるHGF Activator (HGFA)による限定分解が必要で、そのHGFAの活性調節には膜結合型インヒビターであるHGF activator inhibitor (HAI)が重要な働きをしていること、HGFAノックアウトマウスでは傷害粘膜上皮の再生修復が著名に遅延することなどを、これまでの一連の研究で明らかにしてきた。さらに、この研究の過程で、HAI-2遺伝子の11kb下流にアミノ酸106個からなる新規核移行ペプチドHAI-2 Related Small Peptide (H2RSP)を発見し、in vitroの解析で核に移行するペプチドであることを報告してきた。今回(今年度)の研究では、これまでの成果をさらに発展させるため、まずH2RSP-GST癒合蛋白質を大腸菌培養によって大量に作成し、それを用いて抗H2RSP抗体を作成し、様々な組織(消化管正常および炎症性、腫瘍性疾患)でのH2RSPの局在を免疫組織学的、さらにIn situ hibridization法を用いて解析した。また免疫沈降法を用いて、H2RSPに結合する蛋白や核酸の検索を行った。その結果、消化管の癌細胞や、再生中の上皮細胞ではH2RSPは核に移行せずに細胞質に留まっており、消化管上皮細胞の増殖・分化にH2RSPが大きな役割を果たしていることを明らかにし報告した(Virchow Arch, in press)。また、大腸癌の浸潤先端ではH2RSPとP16蛋白の局在が、ほば完全に一致し、これらの蛋白の関連性が示唆され、H2RSPと結合する核酸としてPoly Gを含むリボゾームRNAが候補であることを明らかにした(Gut, in revision)。さらに、機能的なリコンビナントHGFAを作成するため、昆虫細胞を用いた大量培養を行う準備を進めており、現在いくつかのコンストラクトを構築し終えた段階で、来年度はリコンビナント蛋白を実際に実験動物に投与する実験を行う予定である。
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