研究概要 |
ライソゾーム病のひとつであるSandhoff病(SD)はライソゾーム酵素であるβヘキソサミニダーゼA, Bの欠損により、その基質であるGA2, GM2がライソゾーム内に蓄積し、重篤な神経症状を含むさまざまな症状を呈して死亡する病気であるが、未だ詳細な病態メカニズムは解明されていない。SDの病態については中枢神経系での蓄積に依存すると考えられてきたが、我々はSDにおいて自己抗体の産生が症状の悪化に関与していることを明らかにした。本研究ではSDマウスにおける自己抗体産生機序について研究した。SDマウスでは、自己抗体が産生される時期に胸腺の急激な萎縮が見られた。萎縮した胸腺は、主に皮質部分のT細胞が顕著に減少しており、T細胞の膜表面には自己抗体と思われるIgGの沈着が確認された。一方、T細胞の減少に伴い腫大したマクロファージの増殖が見られ、マクロファージの細胞質にはGA2, GM2の蓄積と、抗原抗体反応を介して貪食されたと思われるT細胞の変性した核が数多く見られた。SDマウスの胸腺における遺伝子発現変化を網羅的に解析したところ、B細胞関連遺伝子やマクロファージの分化、増殖に関連するケモカイン、サイトカインの遺伝子、Th2関連遺伝子の高発現が認められた。 これらのことから、SDの胸腺では、通常のアポトーシスを引き起こしたT細胞、及び自己抗体の沈着したT細胞をマクロファージが貪食することにより、マクロファージの細胞内にT細胞由来のGA2, GM2が蓄積し、その結果、マクロファージが活性化し、自己抗体産生を含む免疫異常を弓1き起こし、病態の進行を促進すると示唆される。
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