研究概要 |
抗癌剤治療における障害のひとつは癌細胞が抗癌剤に耐性を獲得することである。その機序として、(1)薬物トランスポーターによる細胞外への薬物排泄の亢進、(2)薬物の不活化・解毒化の促進、(3)薬物の活性型への転換阻害、(4)薬物の標的分子の量あるいは活性の低下、(5)DNA修復能の亢進、(6)アポトーシスへの抵抗性獲得などが挙げられるが、それらは癌細胞に生じたgeneticあるいはepigeneticな変化に基づく。本研究では、抗癌剤耐性細胞株に生じたゲノム一次構造の変化を指標に、耐性関連遺伝子の同定とその機能解明を目的とした。 方法として、CGH(comparative genomic hybridization)法による癌ゲノム解析を応用した。CGH法では全染色体を鳥瞰して染色体の特定領域の欠失あるいは増幅を検出できる。抗癌剤に対する計23種類の耐性細胞株とその親株との間でsubtractive CGHを行い、抗癌剤に耐性を獲得する過程で生じた染色体上の欠失あるいは増幅領域を検出した。そして、耐性株において、(1)13種類のABCトランスポーター遺伝子の増幅、(2)アポトーシス抑制に働くBcl-2ファミリー遺伝子(BCL2L2,MCL1,BCL2L10)の増幅、(3)抗癌剤Camptothecinの標的分子topoisomerase I、およびEtoposideの標的分子topoisomerase II α遺伝子のコピー数減少を見出した。さらに、機能解析を行うため、耐性株において遺伝子増幅を検出したABCトランスポーター遺伝子を対象に、siRNAでそれぞれの発現を抑制する実験系を用いて検討を進めている。 また、高密度オリゴヌクレオチド・アレイを新たに導入し、CGH法ではこれまで検出困難であった微細な染色体領域のDNAコピー数変化を検出することができた。
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