研究概要 |
癌治療における障害のひとつは、癌が抗癌剤に対して耐性を獲得して、抗癌剤治療が無効になることである。本研究では、その分子機序を解明することを目的に、癌細胞が抗癌剤に対して耐性を獲得する過程において生じたゲノム一次構造の変化を調べた。 方法として、23種類の抗癌剤耐性癌細胞株とその親株(感受性株)との間でsubtractive CGH(comparative genomic hybridization)法を行い、耐性株に生じた特定染色体領域におけるゲノムDNAコピー数の増加あるいは減少を検出した。そして、それらコピー数変化を指標に、抗癌剤耐性に関与する遺伝子の同定とその機能解析を行った。 耐性株において、(1)細胞外へ薬物を排泄する機能を持つ複数のABCトランスポーター遺伝子の増幅とそれに伴う発現亢進を認めた。(2)アポトーシス抑制に働くBCL-2ファミリー遺伝子(BCL2L2,MCL1,BCL2L10)の増幅と発現亢進を認めた。BCL2L2が増幅し、それに伴い発現が亢進しているエトポシド耐性卵巣癌細胞株において、BCL2L2の発現を抑制すると、エトポシドに対する感受性が回復した。(3)抗癌剤Camptothecinが標的として作用する分子topoisomerase I遺伝子、および抗癌剤Etoposideが標的として作用する分子topoisomerase IIα遺伝子のコピー数が減少し、それに伴って発現量が低下していた。 以上から、DNAコピー数の変化は耐性獲得に関与する遺伝子の発現を亢進あるいは抑制する機序のひとつであり、それゆえ新たな耐性関連遺伝子を発見するための良い指標となることが示唆された。
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