研究概要 |
線維芽細胞のがん間質内への動員機構を解明するために我々は、SV-40にてトランスフォームされた骨髄、肺、皮膚由来の9種類のヒト線維芽細部株をgreen fluorescent protein (GFP)にてラベリングした。そして、SCIDマウス腹腔内にCapan-1を注入し、約1時間後にこれら線維芽細胞株を別の場所から注入し、3週間後に形成された腹腔内腫瘍の間質を解析した。使用した9種類すべてのヒト線維芽細胞にてがん間質組織への取り込み現象が見られたが、KM104(骨髄由来)、VA-13(肺由来)は、他の細胞株と比して明らかにがん間質への動員が亢進していた。このことは、線維芽細胞株の形質そのものが、がん間質への取り込まれやすさを規定していることを意味している。また、KM104は、腫瘍の大きさに変化は与えなかったが、VA-13は腫瘍体積を増加させた。 Capan-1に高頻度に動員される線維芽細胞の亜株を選別するため、KM104をSCIDマウス腹腔内にてin vivo selectionを行い、がん間質に高率に動員される亜集団(KM104-5G)を分離した。KM104-5Gは、KMIO4-1Gと比較して、形態学および増殖能に有意な差は見られなかった。組織切片よりtotal RNAを抽出して、GFP RNAの発現をRT PCRにて検討した結果、KM105-5Gが動員されたがん組織において、約8倍のGFP RNAが測定された。 In vitroにおける、遊走能、マトリゲル浸潤能の検討を行った。Double chamberの上層にはKMIO4-1G, KM104-5Gを、また下層にはCapan-1の上清を静置し、6時間後および24時間後に、chamber下面に移動した細胞数を検討した。その結果、KM104-5Gは、Capan-1上清に対する遊走能、マトリゲル浸潤能が共に亢進していた。cDNA microarrayにて、KMIO4-5Gにて3倍以上の発現上昇を示した遺伝子群を検討した。これらの内、Carbonic anhydrase IX Keratin8は、ヒト膵がん切除材料を用いた検討でも、がん間質内の線維芽細胞には高発現していたが、非腫瘍部の線維芽細胞では、ほとんど発現が認められなかった。以上、がん間質内には、局所の間質細胞以外に、遠隔臓器(骨髄)より間質細胞が動員されるが、1)線維芽細胞の生物学的形質そのものが、がん間質への取り込まれやすさを規定している、2)がん間質に取り込まれる線維芽細胞は、取り込まれない線維芽細胞と比べて特異な形質を有している、ことが明らかとなった。
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