研究課題
基盤研究(C)
マダニ媒介性で野鼠の赤血球に寄生するバベシア原虫Babesia microtiがによるヒトへの感染(輸血による感染)が、1999年に日本で初めて報告され、これまでに患者由来原虫株(神戸型)は日本既知種(大津型)や米国型とは遺伝的に異なること、そして大津型原虫が日本各地の野鼠に普通に感染しているのに対して、神戸型原虫は淡路島産の野鼠からのみ検出されることが明らかにされている。一方、日本においては媒介マダニに関する研究はほとんどなされておらず、これまで不明な点が多くあった。そこで本課題では、本原虫の有力ベクターを確定することを目的に、以下の三点について検討することとした。1.マダニから神戸型原虫を直接検出する兵庫県六甲山・淡路島で採集されたヤマトマダニ唾液腺から大津型B.microti遺伝子を検出し、組織学的にもその存在を確認し得た。ところが、淡路島では神戸型B.microtiに感染した野鼠が高率に発見されるにもかかわらず、当地のヤマトマダニから神戸型を検出し得ていない。一方新知見として、北海道産のシュルツェマダニ唾液腺から米国型と遺伝子学的に類似する、B.microtiを、また長野県産ヤマトマダニから大津型と遺伝子学的に異なる長野型B.microtiを検出した。2.マダニの原虫媒介の仕組みを実験的に確認するヤマトマダニ成虫を実験室内でカイウサギに吸血させ、唾液腺に存在する原虫を組織学的に追跡した。未吸血時には原虫は未分化のスポロブラストの発育段階にあったが、吸血2日目の唾液腺内では原虫は既にスポロゾイトを形成した。この様に、吸血に伴う原虫の発育をマダニ唾液腺内で確認できたことはヤマトマダニが大津型原虫のベクターであることの有力な証拠と成り得ると考えた。3.日本における神戸型原虫の分布域をさらに検索する神戸型B.microti感染野鼠は青森県、島根県、長崎県対馬・五島列島および鹿児島県種子島から次々に確認された。さらに長野県産ヤチネズミから大津型と2塩基異なる長野型の、また北海道に米国型の存在をそれぞれ認めた。したがって、日本に遺伝学的に異なる4種類のB.microtiの存在を証明することができた。
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