生体防御機構は病原体を認識し排除する巧妙な仕組みであり、病原体から身を守る機構である。生物学的にみると寄生虫感染における生体防御機構は、宿主と寄生虫体の共存関係を維持する仕組みとして進化したと考えられる。したがって宿主の寄生虫に対する認識機構は、先天性免役機構の基本的な異物認識機構をもとにしていると考えられる.これまでの研究により、寄生虫感染で増加する好酸球遊走性サイトカイン(ECF-L)、好中球遊走性サイトカイン(IP18)は、いずれも糖鎖を認識し、レクチン様の作用を持っていることが解明されている。 今回の研究では、日本住血吸虫およびメコン住血吸虫において、白血球遊走性サイトカインの生体防御への役割、とくに好酸球遊走性サイトカインの役割について、病理学的な面から解析をおこなった。住血吸虫においては、好酸球遊走性サイトカインの産生が、好酸球集積との関係について、感染後の時間経過とECF-L産生の関係を調べた。日本住血吸虫感染では感染後6週目から虫卵周囲の好酸球浸潤がみられるが、この時期に一致してECF-L産生のピークが見られた。一方、メコン住血吸虫感染においては、ECF-L産生のピークは15週目であり、18-19週目に繊維化した結節周辺部位に多量の好酸球集積が見られた。メコン住血吸虫感染では、感染後6週から9週目あたりでは虫卵周囲の炎症性細胞はほとんどが好中球であり、その後この炎症部位は線維芽細胞でおき変わり、空胞化が多数みられる緩やかな繊維化が起こることがわかった。これらの結果から、ECF-L産生や好酸球の集積は繊維化には直接的に関係がなく、炎症現場でのECF-L産生は、好酸球の浸潤に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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