近年、熱帯熱マラリア原虫の機能分子の解析に遺伝子座破壊の手法が用いられているが、遺伝子座を破壊した「ノックアウト」原虫クローンの作製には早くても3-4ヶ月と、非常に時間がかかる。そこで、本研究では、アンチセンス鎖を原虫内で生成し、標的遺伝子のメッセンジャーRNAに相補的に結合させることにより、標的タンパク質の発現をノックダウンする手技を確立することを目的とした。初年度は、熱帯熱マラリア原虫用の安定形質発現ベクターを改変し、アンチセンス配列を組み込むためのアンチセンス挿入部位およびリボザイム配列を組み込むことで、安定的ノックダウン用基本コンストラクトを作製した。このコンストラクトから遺伝子座が破壊できることが判っているタンパク質EBA-175を標的としたコンストラクトを作成し、薬剤選択下に原虫に遺伝子導入したところ、薬剤耐性原虫を得ることが出来た。この原虫におけるEBA-175の発現量をRT-PCRおよびウェスタンブロットにより解析したが、野生型と比較して発現の低下は見られなかった。アンチセンス鎖に特異的な配列に対するプローブを用いてPCRを行ったところ、アンチセンス鎖そのものの転写産物が確認できなかった。この問題を解決するために、アンチセンス鎖ではなく、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するように基本コンストラクトを改変し、GFPの発現を検討したところ、薬剤選択マーカーのプロモーターが両方向に作用し、プラスミド上での薬剤選択カセットとの向きにより、GFPの発現が抑制されてしまうことが明らかになった。この点を踏まえて、次年度は、Head to head方向にプロモーターを配列したコンストラクトを構築しなおした。また、安定的ノックダウン用基本コンストラクト中の薬剤耐性マーカー遺伝子をレポーター遺伝子であるルシフェラーゼに組み換えることで、一過性ノックダウン用基本コンストラクトを作製し解析を行った。
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