副作用が少なく殺滅効果の高いアルテミシニンは近年幅広く使われるようになった優れた抗マラリア薬であるが、これまでの通説に反し、アルテミシニンの薬剤耐性原虫がアフリカで報告されて、作用機序に対する関心は高まっている。アルテミシニンが、SERCA(筋小胞体カルシウムポンプ)の特異的な阻害剤であるタブシガギンと同じく、セスキテルペンラクトン類であることに注目して、熱帯熱マラリア原虫小胞体型カルシウムポンプPfATP6がアルテミシニンによって高度に阻害されることを明らかにし、アルテミシニンの標的分子がPfATP6である可能性を示唆してきた。これはしかし、ポンプ阻害効果をATPアーゼ活性でしかみていないため、より選択性が高いと考えられるカルシウム輸送能でより詳しく調べる必要があり、その目的のためにはPfATP6遺伝子のheterogeneousな発現を真核細胞系で行う必要がある。 C末端にc-mycタグをつけたPfATP6遺伝子全長(3684塩基)を入れたPfATP6プラスミド組換え体を構築したが、c-mycタグの配列にttがaaに変わる2塩基のミューテーションがあることが分かった。タグ配列部の修正に、PCRと制限酵素Dpn 1を用いる修正法を行なったがATrich遺伝子であるため出来なかったが、PfATP6に対するポリクローナル抗体を、オリゴペプチドを使って作成した。 このプラスミド組換え体をCos7細胞にトランスフェクトしミクロソーム画分を調べたところ、ATP依存性のカルシウム輸送能は亢進しなかった。PfATP6タンパクのCos7細胞での発現はあるものの、細胞内分布が小胞体への典型的な分布を示さず、マラリア原虫小胞体型カルシウムポンプ遺伝子が進化的にかけ離れた真核細胞で発現されるとき、正しく小胞体膜に埋め込まれていないのではないかと示唆された。
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