細胞内寄生性であるトキソプラズマには解糖経路上のピルビン酸キナーゼの他に、同じ反応を触媒する酵素がもうひとつゲノムデータベース上に存在することを我々は見いだした。当初この酵素は解糖系酵素のアイソザイムであると推測した。トキソプラズマ生活史上の別の形態においてまた違った解糖経路調節機構の存在が考えられた。しかし系統樹解析の結果、我々がすでに性質を調べた解糖系酵素は植物の酵素と近縁であったが、問題の酵素は遠くはなれた位置にあるプロテオバクテリアを起源とすると推定されることから、このアイソザイムと思われた酵素は解糖経路に関与するのでは無く、全く別の代謝経路のメンバー酵素である可能性も考えられた。この酵素の遺伝子よりリコンビナント酵素を大腸菌で発現させ、精製してその性質を調べたところ、明らかに解糖系酵素のそれとは異なっていた。具体的には、この酵素はGDPを主な基質として利用し、高pH環境(pH 8.5-9)で作用するという、他種生物には存在が知られていない新規酵素であった。間接蛍光抗体法による解析で、トキソプラズマの新規酵素はミトコンドリアおよびアピコプラストに局在していた。ミトコンドリアに存在するピルビン酸キナーゼは今までどの生物にも知られていない。現在のところミトコンドリアにおけるGTPの供給に重要な役割を演じているものと推測している。一方アピコプラストでは脂肪酸合成のためのピルビン酸供給を行っていると推測される。これらの結果を現在論文にまとめ投稿中である。
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