研究概要 |
ピリミジン生合成経路の第5酵素orotate phosphoribosyltransferase(OPRT)と第6酵素orotidine-5'-monophosphate decarboxylase(OMPDC)は、トリパノソーマ類では特異オルガネラであるグリコソームに局在する。興味深いことに、両酵素遺伝子は動物や植物の持つOPRT/OMPDC融合遺伝子とは逆の順に融合し(OMPDC/OPRT融合)、同原虫類のOMPDCドメインは遺伝子水平転移によって獲得されたと推定される。遺伝子クローニングの結果、ボド類はOMPDC/OPRT融合遺伝子を、ユーグレナ類はOPRT/OMPDC融合遺伝子を持つことが明らかとなったが、核酸データベース検索を行なったところOMPDC/OPRT融合遺伝子は他の生物群(シアノバクテリアおよびストラメノパイルに属する珪藻と卵菌)にも存在していた。分子系統学的解析の結果、トリパノソーマ類とストラメノパイルのOMPDC/OPRT融合遺伝子は独立に生じたこと、シアノバクテリアはトリパノソーマ類のOMPDC/OPRT融合遺伝子を水平転移によって獲得したことが強く示唆された(Makiuchi, et al., Gene, in press)。これは、同じ組み合わせかつ同じ順序の遺伝子融合が独立に起こりうることを示す初めての研究である。 また本年度は、クルーズトリパノソーマの異なるイオン環境への適応において重要な役割を担う分子の同定に成功した。申請者らがTcENAと名付けた遺伝子はP-type ATPaseをコードし、哺乳類細胞発現系を用いた酵素学的解析から、ヒトナトリウムポンプの阻害剤ウアバインに耐性を示し、Na^+またはK^+存在下でATPase活性を示した。さらに、TcENA過剰発現原虫は高濃度のNa^+存在下においても運動性を保つことから、TcENAは細胞内からのNa^+(またはK^+)の排出に関わる酵素であり、細胞外寄生(高Na^+濃度)と細胞内寄生(高K^+濃度)の両者においてイオン恒常性の維持に重要な役割を果たしていると考えられた(Iizumi, et al., BBA2006)。
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