腸管寄生線虫Nippostrongylus brasiliensis (Nb)を排除したばかりのマウスへのNbの外科的小腸内移入実験は、移入されたNbが一旦はマウスの小腸に定着することから、T細胞によって誘導された小腸内シアル化ムチンの作用は物理的な定着阻害ではないことが考えられた.しかしながら、外科的な移入の際に用いる麻酔薬が排除時間に影響を与えていることがいくつかの麻酔薬を用いた実験で明らかとなり、物理的な排除の可能性が残された.この麻酔薬の関与は、T細胞によって誘導される腸管での排除が、麻酔薬の標的となる神経受容体の影響を受けることを示唆しており、免疫系と神経系の相互作用の存在が示された.これまでのところ、α2アドレナリン受容体が腸管からのNbの排除を遅延させることを明らかにした.シアル化ムチンの生理的作用の指標としてNb虫体内のATP量を測定する系を確立し、好適寄生部位からの排除に伴って虫体内ATP量が低下することを明らかにした.一方、サイズの小さなNbは好気的エネルギー代謝を行っており、腸管腔内の酸素分圧の影響をも受けている可能性をin vitroの系で示した.予備実験的には、シアル化ムチンに暴露されたNbにおいてATP量の減少を認め、さらに、感染部位の腸管腔内酸素濃度の低下を示す結果を得ている.これらのことから、T細胞によって誘導されたシアル化ムチンが腸管腔の環境を変える(酸素分圧の低下?)ことによってNbの排除を誘導していることが予想されるが、これを支持する直接的なデータを得るまでに至らなかった.一要因として、生理的機能を残したまま粘液を取り扱う方法の確立が大きな課題として残った.
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