本研究は薬剤耐性原虫分布に影響を与える疫学因子や薬剤圧レベルの異なるいくつかのフィールドから得られた原虫耐性遺伝子周囲に存在するマイクロサテライト多型解析を行うことによって、「耐性原虫がいつ頃出現し、どのような時間的、空間的な広がりを持って定着したのか」について考察するものである.本年度は基礎実験にて決定されたdhfr遺伝子周囲(-360から+300KB)のマイクロサテライトマーカー多型をパプアニューギニア、ヴァヌアツ、ソロモン、カンボジア、タイからのフィールドサンプルにおいて決定した.結果、 1)現在浸淫地に分布している耐性原虫の大部分は非常に限られたlineageの拡散による、 2)メラネシアは南米、東南アジアに続く3番目の耐性原虫のfocusである、 3)dhfr単変異原虫は多種のlineageを持っ、すなわちこの変異原虫の出現はまれな現象ではない、 4)ハプアニューギニアにおける東南アジアおよびメラネシア由来耐性原虫マイクロサテライト多型度の比較により両lineageはほぼ同時期に生じた、ことが示された. 耐性原虫の出現および選択に関わりうる因子は多種あるが、もっとも強い影響を及ぼすのは、当該薬剤の使用である.しかしファンシダールが第一選択薬として用いられていた時期は、東南アジアでは1970年代から80年代、一方メラネシアでは1990年代以降と両地域に約20年のずれがあり、集団遺伝学的に推定された東南アジアおよびメラネシア由来lineageの同時期出現を説明することができない.次年度は分子進化学的手法を用いて遺伝子変異の起こった時期を推定し、各フィールドにおける薬剤使用を中心としたマラリア対策・疫学と耐性の進化拡散の関係を明らかにしていきたい.
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