抗マラリア薬pyrimethamineに対する耐性原虫の蔓延はマラリア対策上大きな問題となっている.この耐性には原虫dhfr遺伝子の変異が関与している.しかし進化上、耐性原虫の出現は非常に稀な事象であり、現在蔓延している耐性原虫はごく限られたlineageの拡散によって起こることが想定されている.本研究は「pyrimethamine耐性熱帯熱マラリア原虫がいつ頃出現し、どのような時間的、空間的な広がりを持って定着したのか」について考察するものである.本年度はアフリカおよび南米計5ヶ国から得たサンプルを解析した.その結果、 1)アフリカ土着の高度耐性原虫(dhfr3重変異)を初めて見つけることができた.現時点まで、アフリカにおけるpyrimethamine耐性は全て東南アジアで出現進化した耐性原虫のmigrationによると考えられていたが、本研究によりガーナ、ケニアにおいて耐性原虫が独自に進化したことが証明された. 2)現在まで、東南アジアおよびメラネシアでは中程度耐性を起こす原虫遺伝子変異(dhfr2重変異)は2つの系統しか報告されていない.本検討によって、この変異はアフリカでは比較的頻繁に起こっていることが示された.アフリカの原虫集団においてはdhfr2重変異の出現は比較的よく起こっており、この中程度耐性原虫に何らかの因子が働くことによって高度耐性原虫(dhfr3重変異)が出現すると思われる.非常に稀な事象と考えられていた耐性原虫の出現がアフリカで独自に起こっているという発見は、耐性出現を予測する上で興味深い.今後どのような因子が耐性の原虫の出現・拡散に影響したのか検討を進めていく予定である.
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