真核生物における細胞周期制御機構の鍵分子、サイクリン依存性キナーゼCdk1については、アミノ酸残基のリン酸化反応により、その立体構造と生物機能を変化させて様々な分子、特に各種サイクリンと結合、解離することにより、その基質特異性を変化させて細胞周期を制御しているといわれる。病原性酵母クリプトコックスにおいてもCdk1と各サイクリン分子間相互作用の詳細が明らかにすることによって、その特徴的な細胞周期制御の分子機構の解明が期待される。そのことに関しては、ヒトサイクリン性依存キナーゼCDK2とヒトサイクリンAとの結合が解析されている。それらが結合した状態で結晶化され、その結晶の構造が詳細に解析されてその結合状態がわかっている。そこで私たちが遺伝子クローニングした、クリプトコックスのサイクリン性依存キナーゼとサイクリンについて検証するため、まず、それらの配列をアラインメントしてみた。ヒトと真菌という生物学的には非常に離れた間でありながら、サイクリン依存性キナーゼについては、ヒトと本酵母の相当分子の間で多くの共通した配列を持っていた。一方、サイクリンの方も、ヒトと本菌のサイクリン分子の配列を比べたところ、N末、C末の両端は少し違うが、重要だと思われる真ん中部分は非常によく似ていた。そこで、バイオインフォマティックス的手法を用いて、本菌両分子の結合状態をin silicoでモデリングしてみると、非常にエネルギー的にも安定な関係であると思われ、また、本菌Cdk1とその制御因子サイクリンとのCdk1側の結合部位は、いわゆる「PSTAIREモチーフ」部位であると思われた。今後、それらの解析は本菌に特異な細胞周期制御の特徴を説明しうる分子的な知見になる可能性があり、コンピュータで解析したこのモデルと実験室での実験結果とを照合しながら、両分子の結合状態、相互作用の検証を進める。
|