本研究では、結核菌やBCG感染マクロファージにみられる形態および機能的変化を調べ、菌がマクロファージ機能をどのようにして制御するのかについて検討した。病原性の強い結核菌H37Rvは感染マクロファージのアポトーシスを抑制する一方、ネクローシスを誘導する能力が高い。これは、マクロフアージ内で菌が増殖した後、感染細胞を破壊し、さらに感染を拡大するための重要な機序であると考えられるが、感染初期にはcaspase-9依存的なネクローシス抑制機序が働き、増殖の場となるマクロファージの細胞死を抑制していることが示された。また、結核菌感染後のネクローシス誘導には、結核菌ゲノム上に存在するRDI領域が重要で、この領域に含まれる遺伝子産物が、感染マクロファージのミトコンドリア内膜の傷害に関与し、結果的に細胞内ATP量を減少させるため、細胞がネクローシスに陥ることが明らかとなった。さらに、マクロファージに貪食された結核菌は細胞内で活発に代謝していることが示され、その結果産生された結核菌因子が、マクロファージからのTh1誘導型サイトカインの産生を亢進させることが示唆された。また、結核菌の肺胞上皮細胞への侵入は宿主体内での結核菌長期生存に関与すると考えられるが、上皮細胞は、ケモカイン産生を介して炎症性細胞を感染局所に動員することで宿主初期防御反応に関わっている。本研究の結果、菌の上皮細胞への侵入に関与するMycobacterial mammalian cell entry protein 1A(Mce1A)と細胞とのinteractionはケモカイン産生を誘導しなかったが、Mce1Aを介した細胞への結合が他の菌体表層因子に対する細胞のシグナル応答を亢進させるため、結果としてケモカイン産生が誘導されることが示された。 これらの研究成果をふまえて、さらに感染後にみられるマクロファージの機能制御のメカニズムを分子レベルで解明していく予定である。
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