研究概要 |
サルモネラがマクロファージに貪食されるとアポトーシスを誘導することが報告されてきた。しかし我々は20-30%の感染マクロファージは約50菌体ものサルモネラに感染しているにもかかわらずアポトーシスを起こさず風船状に膨張する(以下、風船状マクロファージ)ことをこれまでに見出した。以下に平成17年度に我々が行った研究実績を記す。 1,TUNEL染色を用いた観察からも風船状マクロファージはアポトーシスを起こしていなかった。2,従来、宿主細胞内に侵入したサルモネラは鞭毛を失い、運動しないとされてきたが、動画撮影や免疫染色等により、風船状マクロファージ内部のサルモネラは鞭毛運動によって活発に動き回り、その後細胞外に脱出することを観察した。3,風船状マクロファージの膨張機構を解析するため細胞骨格に注目したところ、チューブリンや中間径フィラメントは変化していなかったが、アクチンフィラメントが細胞全体にわたり脱重合していることを示した。4,宿主細胞のアクチン脱重合に関与することが知られるSpvBをコードする遺伝子の欠損株では野生株のものと比較すると風船状マクロファージの形成率約1/5に低下すること、つまりサルモネラはSpvBによって風船状マクロファージを効率的に形成していることを示唆した。5,マウス生体内における風船状マクロファージを探索するため、BALB/cマウスにサルモネラを静脈感染させ、様々な組織における感染マクロファージの観察を行った。その結果、感染後期である6日目の肝臓組織切片で風船状マクロファージに酷似した細胞を見出すことができた。 以上の知見は細胞内寄生菌であるサルモネラが感染後期には宿主細胞より能動的、かつ効率的にマクロファージから脱出するというこれまで注目されてこなかった機構を明らかにした。
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