緑膿菌は院内感染の主要起因菌で自然および獲得多剤耐性を示すので、化学療法が多くの場合困難となり、臨床的に大きな問題となっている。本菌の多剤耐性は多剤排出ポンプによって担われる。本菌には数種類のRND型排出ポンプが存在し、その中で主要なポンプがMexAB-OprMである。このポンプは三成分からなり、外膜で薬剤が透過するチャネルを形成しているOprMはペリプラズム側に大きなαヘリックスドメインを突き出し、膜貫通領域は透過孔をつくるβバレルからなる。また菌体外には10アミノ酸からなる二つの小さなループがあるが、これは単に膜貫通領域をつなぐものと考えられた。この考えが正しいかを検討するために、本当にこの細胞外ループがポンプ機能には関与しないかを調べた。 まずOprM遺伝子をpUCPプラスミドにクローニングし、二つのループにある総計20のアミノ酸をそれぞれCysに置換した変異体を構築した。次にこれら変異体をOprM欠損緑膿菌株に導入し、得られた形質転換株が野生型と同じように薬剤耐性を回復するかどうかを薬剤感受性から調べた。その結果、第一のループの109番目のプロリンが変異したタンパクでは耐性は回復せず薬剤感受性となった。さらに第二のループのなかでもポンプ機能に影響するいくつかのアミノ酸があり、特に311番アルギニンと318番アスパラギン酸の変異は大きく薬剤感受性となった。これらの効果が単に変異タンパクの発現が低いからという可能性もあるので、形質転換株のOprMタンパクの発現を調べた。まず菌を超音波破砕し、分画せずにそのまま電気泳動にかけ、膜にblotした後、抗OprM抗体を用いてタンパクを検出した。その結果、全ての形質転換株でOprMが安定して発現していることが確認された。以上の結果からOprMの細胞外ループはポンプ機能に重要な役割を果たす領域であることが明らかとなった。
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