研究概要 |
ウエルシュ菌の産生するβ毒素は、致死、壊死活性を有し、本菌による壊疽性腸炎の病原因子と考えられている。最近、これまで明らかにされていなかったβ毒素の感受性細胞の検索を行ったところ、我々は、本毒素はin vivoでマウス脾臓細胞に影響を与えることを突き止め、その後,種々の血球系細胞に対する作用を検討し、ヒト急性前骨髄性白血病細胞であるHL-60細胞が感受性であることを初めて明らかにし、さらに、β毒素はHL-60細胞の細胞膜ラフトドメインに結合してオリゴマーを形成することを明らかにした。本年度は、本毒素の作用をより理解するため、β毒素がいかなるリンパ系細胞に感受性を示しどのようなシグナル伝達系をに影響を与え本毒素活性が発現するのか、さらに、HL60細胞からの種々のサイトカイン遊離作用を示すかどうかを検討した。β毒素はHL-60細胞の細胞膜ラフトドメインに特異的に結合後、モノマーからオリゴマーを形成し、細胞からのKイオン遊離や細胞障害を引き起こすことを明らかにしている。そこで、他の細胞に対する作用を明らかにするため、本毒素を種々の血球系培養細胞と非血球系培養細胞に作用させ、その細胞膜マイクロドメインへの結合、及び、細胞障害の有無を検討すると、単球系のU937細胞やTHP-1細胞、T細胞系のMOLT-4細胞,B細胞系のBALL-1細胞膜上で、程度の差はあるが本毒素は細胞膜ラフトに結合後、細胞障害を示すことを明らかにした。すなわち本毒素は、血球系細胞のラフトの受容体に結合し作用することが判明した。そこで、毒素が受容体に結合後、どのようなシグナル伝達系を活性化しているのかを明らかにするため、毒素処理後の内因性ホスフォリパーゼC(PLC)の活性化をジアシルグリセロール(DG)の産生量で測定すると、毒素後、約30秒でDG産生が最大となり、その後低下して10分後に再び上昇する2相性の活性化が認められた。すなわち、本毒素は内因性のPLCを活性化することが明らかとなった。さらに、PLC活性化後の経路を明らかにするため、PKC阻害剤(スタウロスポリン)や小胞体からのCa遊離阻害剤(TMB-8)を用いて検討すると、TMB-8で本毒素の細胞膨化が抑制され、さらに、カルモジュリン阻害剤でも抑制された。すなわち、本毒素は、血球系細胞のラフトのレセプターに作用して、内因性PLCの活性化により、小胞体からCaが遊離しカルモジュリンを活性化するシグナル伝達系を活性化している可能性が推察される。
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