ウエルシュ菌β毒素がHL-60細胞のいかなるシグナル伝達系を活性化して細胞障害活性を示すのを検討した。これまで、本毒素は細胞膜の細胞内情報伝達に関与するホスホリパーゼC(PLC)を活性化してジアシルグリセロール(DG)とイノシトール3リン酸(IP3)の産生を亢進することを明らかにした。そこで、細胞内Ca^<2+>遊離阻害剤であるTMB-8、そして、カルモジュリン(CaM)阻害剤であるW-7とトリフルオロペラジン(TFP)を用いて、細胞の膨化作用を検討したところ、本毒素の膨化作用は抑制された。一方、Ca^<2+>流入阻害剤であるVerapamil、ω-Contoxinでは、毒素作用が阻害されないことから、本毒素作用には小胞体からのCa^<2+>遊離が重要と推察される。さらに、その下流のシグナル経路に存在するカルシニューリン(CN)を阻害するシクロスポリンAで処理した細胞でも、本毒素の作用は抑制された。そこで、HL-60細胞に種々の濃度のβ毒素を添加し、37℃、30分間インキュベーションし、その後、CNホスファターゼ活性を測定すると、濃度依存的に活性化された。CNは、活性化されると、核内転写因子であるNF-ATと複合体を形成し、核内に移行する事が知られている。そこで、β毒素処理後のHL-60細胞のCNの局在を抗CN抗体用いて、共焦点レーザー顕微鏡で観察すると、毒素処理した細胞の場合、CNは、核に移行している像が観察された。以上の結果より、β毒素は、HL-60細胞膜上に存在するレセプターに結合し、その後、内因性PLCを活性化することによりDGとIP_3の産生を誘導する。次に、産生したIP_3は、細胞内Ca貯蔵部位である小胞体を刺激しCa^<2+>を遊離させ、Ca^<2+>がCaMと結合し、CNを活性化する。次に、活性化されたCNは、NF-ATと結合し核内に移行し、種々の遺伝子を発現させると考えられる。
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